対 談
次世代に向けた新しいプロジェクトVol.1
株式会社アンズコーポレーション
取締役相談役 山田 安廣 様
1938年生まれ。
信天堂山田安民薬房(現ロート製薬株式会社)創業者である山田安民氏を祖父とし、ロート製薬株式会社の初代社長山田輝郎氏の五男として生れる。元ロート製薬株式会社代表取締役専務。元メンソレータム社取締役会長。現株式会社アンズコーポレーション取締役相談役。
東
今年(2021年)の春、久しぶりに山田様とお電話でお話したときに、現在のお仕事をご長男様に任されてお時間ができたと伺いました。そして山田様は私が以前から社会貢献活動を行っていることをご存じでしたので、「未来を担う子供たちに何かできないでしょうか?」と尋ねてくださいました。
そのとき山田様はいじめ問題を減らすにはどうしたら良いかを考えておられました。
山田様
そうです。多くのいじめ問題に接すると心が痛みます。多くの団体はいじめを受けた子供たちのケアを中心に活動しています。現実的には難しいことは承知していますが、私はそもそもいじめ自体の予防策がないかを考えていました。
人は生まれた時からいじめっ子である人はいないと思います。いじめっ子になってしまう家庭や社会の環境にも原因があります。そのための予防策があるのかどうかを考えておりました。ただし、私自身が取り組みたいことは、いじめ問題に限定したサポート活動だけでなく、子供たちの未来に対して何が出来るかを広く勉強したいと思っておりました。
そこで以前から色々な活動経験がある東さんに話を聞いてみようと思った次第です。
東
有り難うございます。最初は驚きました。山田様のように社会的に名前のある方から直接お声をかけて頂けたことはとても光栄です。そして山田様が80歳を超えたご年齢でも、ご自身でアクションを起こして、社会のために新しく価値創造を行っていこうと取り組まれる姿勢に驚きました。
いつも山田様は謙虚な姿勢ですし、私に温かいお言葉をかけてくださいます。いつも私が恐縮してしまいます。そもそも社会のために何かを還元したいと思われる動機は何なのでしょうか?
山田様
以前からその想いはありましたが、実行に移せておりませんでした。山田家としては、祖父の代から仕事で得た利益を社会に還元していくという考え方をもっています。祖父は盲学校を作りました。
父は晩年、成果が出るまでに時間がかかる自然科学の基礎研究を支えるために、公益財団法人山田科学振興財団を作りました。そしてロート製薬としても社会のお役に立つ活動をたくさん行っております。
東
山田様はいつも「ビジネスを通して社会に貢献することが大事だ」と仰っておられます。
山田様
そうですね。ビジネスはお金儲けだけを志向するのではなく、社会の役に立つモノやサービスを提供した結果、お客様からご支持をいただくことで成り立つものです。
ロート製薬においては、私自身、日本で最初の一般用妊娠検査薬を発売するために奔走しました。様々な既得権益と戦いながら8年という歳月をかけて市場に出すことができました。これも「女性が家庭で妊娠検査をすることができれば、どれほど精神的かつ金銭的な負担が減るだろうか。」との社会的使命感が原動力でした。もちろん政府には医療費削減につながることを説明し続けましたが、根本的な動機は「多くの女性の負担を軽減したい」との想いでした。
東
ご自身に与えられた使命ですね。使命感はビジネスにおいても、生き方においても前向きに進むことができる精神的支柱になります。
今回、山田様は多くの社会貢献活動について勉強したいと仰っておられましたので、私は「使命感をもって頑張っている社会活動家をご紹介します。色々な分野の人と会っていただきながら、少しずつ勉強してもらえたら幸いです。」とお伝えしました。そして、通称「新こどもプロジェクト」が始まりました。日本において困難な状況にある子供たちをサポートしたい、そして彼らに希望を持って逞しく生きてもらいたい、との山田様の想いをどのように実現していくかを多くの関係者と一緒に作っていきます。
まず初めに10代の若者支援を行っているD×P(ディーピー)の今井さんをご紹介しました。続いて、日本こども支援協会の岩朝さん、Natural Valueの吉田さん、リタワークスの佐藤さん等をご紹介させていただきました。
山田様
いつも素晴らしい志のある人をご紹介していただき有り難うございます。
社会を良くしたいという強い想いを持った若い人たちに出会い、皆さんの想いの熱さに刺激を受けるだけでなく、その素晴しい行動力に敬服しています。東さんには多くの視点でこれからも伴走支援やアドバイスを頂ければ助かります。
東
こちらこそ楽しい時間を一緒に過ごさせて頂いております。
ところで、山田様が小さい頃は戦後の混乱期でロート製薬様も随分大変だったようですね。また、お母様が若くして脳卒中のために倒れられたため、看病その他で大変だったと伺いました。
山田様
そんな環境でありましたが、父からはよくビジネスの経験談を聞かせてもらいましたし、母は病床に居ながらも、母らしい優しさを示してくれました。その時はそれ程にも思いませんでしたが、今思えば両親から随分多くのものを頂いたと、感謝しています。
その頃は戦後の厳しい経済環境や戦争の影響を受けた家庭を持って、皆さん必死で生きておられた時代でした。
そして朝鮮戦争を契機に日本は復興から繁栄の道へと進みました。多くの人々が「今日よりも明日が良くなる」と信じながら生きる事が出来た時代です。そういう意味においては、今の若者の方が閉塞感のある息苦しい時代を生きていると感じています。
東
特にコロナ禍においては、格差の拡大が問題とされ、社会の雰囲気としても閉塞感が増しました。このような環境の中、若者が夢を追いかけることができる環境を作っていけるかは、私たち現役世代の役割かと思っております。
今まで多くの関係者と「新こどもプロジェクト」について話をしてきました。山田様はいつも議論の途中で新しい選択肢が提示された際に、今までのご自身の考えにとらわれることなく柔軟な発想で意見を述べられておられます。この点はいつも感心させられます。
山田様
自分には社会貢献活動に関して知らないことが多いですし、子供たちのために役に立つかどうかの視点で議論を整理すると、常に柔軟な発想にならざるを得ません。
このプロジェクトを始めたときは、恥ずかしながら自分がある程度主役になることも想定していたのですが、本気で取り組んでいる素晴らしい皆さんとお話をすることで、「子供たちのことを想うのであれば、何も知らず経験したこともない自分が主役になってはいけない。」と思うようになりました。そのうえで自分が出来ることに取り組んでいきたいと思っております。
東
自分の事ばかりを主張する世の中において、「自分が主役になってはいけない」というお言葉はなかなか出てこないです。山田様のように利他の精神に富まれた方とご一緒できるだけで心が安らぎます。
これまで何度かお食事やミーティングをしながら、山田様の想いや「社会貢献のあり方」を伺わせていただきました。その都度、山田様はご自身でミーティングの議事録を作られ、自分の理解が正しいかを確認されます。いつも感服するばかりです。
今回の対談では山田様の社会に対する想いの原点を皆さまと共有させていただきました。時間をおいて、次回は具体的なプロジェクトの進捗について、皆さまにご紹介できる機会を作りたいと思っております。どんどん形を変えながら、前に進んでいく様子を皆さまにも知ってもらえたら幸いです。
山田様と新しいプロジェクトを一緒に作っていけることを光栄に思っております。
山田様
まだ何も具体的な形が出来上がっていませんので、このような内容を記事にするのは時期尚早ですが、社会のために何かをしたいと思っておられる方のご参考になれば幸いです。
2021年12月 大阪にて