若手の音楽家支援 Vol.1
2022年10月
人生の先輩は若手のプロ音楽家を支援している。
私は28歳のとき、シティバンクのプライベートバンクに勤務し始めた。
プライベートバンカーとして駆け出しの時に、電話営業から初めてお客様になっていただいたのが、人生の先輩のファミリーである。あれから20年のお付き合いになる。
人生の先輩は、若手のプロ音楽家支援のために一般社団法人と一般財団法人を運営している。才能豊かな彼らが海外で更なる研鑽を積むためには、多大な資金が必要となる。
例えば、移動だけ考えても、チェロのような大きな楽器を運ぶ場合、チェロ用にもうひと席の座席代を支払わないといけない。
人生の先輩は10年以上前から、あらゆる側面で若手の音楽家の支援活動を行ってきた。東日本大震災のときには、東北地方に住む音楽家に演奏の機会を提供した。海外から来た音楽楽団の大阪公演もサポートしている。
先日、人生の先輩は丘の上にあるサービス付き高齢者向け住宅を購入した。
先輩は年齢も若くて元気なので、今まで通り自宅に住む予定であるが、景色のいい場所を今から確保しておきたかったらしい。
ある日、この高齢者向け住宅のエントランスホールに設置されている舞台で、ヴァイオリン(カルテット:4人)の演奏会が開催された。どこかのイベント会社とのタイアップで開催されている。
人生の先輩も聴いていた。
ヴァイオリンの曲目は、プロでも難しいと思われるものや、日本の童謡などである。
人生の先輩は思った。
演奏者の椅子が聴衆に向かって横一列に並べられている。
通常、お互いの音が聞こえるように半円を描くように並べるものである。
高齢者相手ということで、童謡とかを演奏しているが、本当にここにいる人たちはそれで満足しているのだろうか? ここに住んでいる高齢者は富裕層の人たちなので、今までクオリティの高いクラシックを聞いてきたのではないのか? もっと本物の音楽を聴きたいとは思わないのであろうか?
早速、人生の先輩はこの施設の責任者と話をして、若手でクオリティの高いプロ演奏家を自身の財団の資金を使いアレンジすることを提案した。施設としても有り難い提案である。
そして人生の先輩が企画する音楽会が開催された。第一回目はハープの演奏会である。
この場所でハープの演奏会が開催されるのは初めてであり、大勢の入居者が集まった。自身で動けない人はベッドに寝ころんだまま、エントランスホールまで運んできてもらい、音楽を楽しんでいる。大盛況である。
私は純粋に感動した。この場の全員が満足している。
- 若手のプロ音楽家:演奏できる場所を与えてもらい、出演料をいただける。
- 施設の入居者:体が不自由でコンサートホールまで行けなくても、プロ音楽家の本物の音楽を聴ける。
- 人生の先輩:若手のプロ音楽家の支援をしながら、多くの人に喜んでもらえる。
これからの日本はますます高齢化社会になる。裕福な高齢者も多い。
彼らは高齢者施設で如何に心豊かに時間を過ごせるのかを、それぞれ模索することになる。
人生の先輩のように、若手のプロの演奏家を育成しながら、この施設に関わる人全員が喜ぶような企画を主体的に開催することで、自分自身が充実した時間を過ごすこともできる。
「みんなが喜ぶ」と「主体的」というキーワードを満たす支援は、自分自身の人生を豊かにする。もちろん、このような活動は一部の富裕層にしかできない。
社会の為に何か出来る人にはどんどん主体的に関わってほしい。
社会に温かい資金が循環するようにお手伝いをすることが、私の役割である。
教科書的には、お金はモノの価値を比較し判断するための「価値を計る尺度」と言える。
一方、お金が活きた使い方をされる時、そのお金は価値を計る尺度という役割を超えた輝きを放つ。
多くの人の“想い”や“喜び”が輝きとして加算されるのである。