セレンディピティ
2022年3月
先日、久しぶりに東京に行った。
日本アントレプレナー大賞というビジネスコンテストに参加するためである。
この賞は5部門から構成されている。
偶然の成り行きで、私はソーシャルビジネス部門の審査責任者をしている。
各部門で応募者から選ばれた2名が会場でプレゼンを行い、最後に1名(部門賞)が決定される。
4月には5部門の中から「大賞」が決まる。
毎回新しいビジネスプランが出てきて、その都度、私はアイデアの斬新さに感心する。
ある部門の審査責任者は東証1部上場企業の創業者である。
この創業者は長い経営者としての経験から、起業家に対して鋭い質問をする。
ビジネスプランに実現可能性を求める姿は、
たたき上げで組織を大きくしてきた経営者としての凄みを感じる。
今回、ソーシャルビジネス部門賞は昨年に続き女性経営者が受賞した。
昨年ソーシャルビジネス部門賞を受賞し、
後に5部門の中から「大賞」を取ったMs.坪井さんは、現在ウガンダから一時帰国している。
自らのビジネスモデルでウガンダの水事情を改善しようと必死に取り組んでいる。
この1年でウガンダ政府からも信認を得ている。
彼女が帰国している間に、在大阪ウガンダ名誉領事に面談をお願いしている。
名誉領事は日本人企業家であり、
名誉領事が経営する会社はサステイナブル企業のリーディングカンパニーとして有名である。
私は彼女のウガンダでの活躍を名誉領事に知ってもらいたい。
そして可能であれば、何かしらサポートしてもらえないか?と勝手に願っている。
これから活躍する若い起業家には、多くの立派な経営者に会ってほしい。
一人でも多くの支援者と繋がってほしい。
私が出来ることは、起業家に立派な経営者とのご縁を繋げることである。
起業家はその出会いを大切に育んでほしい。
ビジネスの成功要因は「運が9割」という経営者がいる。
成功者の多くは「時代が良かった」「多くの出会いに助けられた」と語る。
ふとした偶然で幸運をつかむことをセレンディピティという。
しかしビジネスは幸運だけでは成功できない。
日頃から努力を継続できる人や、出会いを大切にする人にのみ、セレンディピティは巡ってくる。
往々にして、セレンディピティは自分の意図していない方向からやってくる。
今回の東京滞在において、日本を代表する経営者(人生の先輩)と3か月振りにお会いした。
もともと人生の先輩とはイベント会場で偶然知り合ってからのご縁である。
人生の先輩の著書には、経営者の視点だけでなく、人間としての生き方の本質が書かれている。
私はこの本に、多くの付箋を張り、赤線を何本も引いている。
セレンディピティという言葉も、この本の中で初めて知った。
人生の先輩との会話を楽しんでいると、
先輩は突然「将来、自分が作った公益財団法人の理事になることを検討してもらえないか?」と話された。
私は一瞬自分の耳を疑い、「重鎮ばかりの理事や評議員の中に、私が入るのは場違いではないでしょうか?」と動揺を隠せずにお答えした。悩ましいことであるが、とても有り難いお言葉である。
私は社会の役に立つ財団や社団を設立した人の想いを、後世に繋いでいくことを自身の役割であると考えている。
そして、その役割を担えることはとても光栄である。
最後に、人生の先輩は
「これからの自分の人生は、経営者というよりも、多くの若者に経営者としての心構えや人生の歩き方を伝えていく伝道師でありたい。」と語ってくれた。
今回の面談は40分ほどで終わり、先輩はホテルオークラのエントランスに向かった。
そしてエントランス前に待たせてある黒塗りの大きな車の後部座席に乗り込んだ。
私はお辞儀をして先輩を見送った。
今から飛び立つ若手起業家の想い。
複数の大企業をゼロから作ってきた人生の先輩の想い。
私はどちらもお手伝いできることが幸せである。
私の人生は偶然の出会いの蓄積である、と改めて実感する。