~人生を豊かにする社会貢献活動~

当ページは、PAVONE76号(2025年10月号)の
【人生を豊かにする社会貢献活動】を掲載しております。

 

 

近年、遺贈のニーズが増えている。自分の死後に「自己の財産を社会で有効に使ってほしい」とNPOや大学、自治体などへの寄付を遺言書に残す。私が理事を務める公益財団法人東京コミュニティー財団にも遺贈に関する問い合わせが増えてきた。

遺贈には大きく2つの動機がある。それは、①財産を相続人に全部渡すのではなく、一部を社会のために使ってほしい ②相続人がいないので、代わりに社会で使ってほしい、に分かれる。いずれの動機にせよ、自分の死後にはじめて社会貢献活動をするのではなく、元気な時に寄付活動を楽しみ、人生をより豊かに過ごしてほしい、と思っている。

私は富裕層の方から遺贈したいという相談を受けることがある。その人の資産状況を考えたときに、私の頭の中では以下のような思いが駆け巡る。

これだけ資産があれば、生前にある程度の寄付をしても、生活に困ることはないだろう。遺贈という制度だけを利用して、死後に支援した人から感謝されても、死んだ本人には実感がない。それなら生きているうちに寄付をしながら、自分のお金がどのように社会に循環し、どのように社会の役に立っているかを実感した方が、残りの人生を有意義に過ごせるのではないか?

一度に大きな寄付をする必要はない。少しずつ自分が気になるNPOや大学、自治体などに寄付をしてみることで、寄付先との関わりができる。関係者との対話を通じて、どの分野に自分のお金を使ってほしいかをイメージすることができる。一方、せっかく寄付したのに、自分の想いが満たせない寄付先であれば、「ここに遺贈することはやめよう」と気持ちを切り替えることができる。寄付活動を自分の人生の豊かさに取り込むためには、学びの時間が必要である。そのためにも早くからスタートして、「自分にとって満足のいく寄付活動は何なのか?」を模索することが大切である。

 

 

先日、ある富裕層の方から「先代から引継いだ資産は守らないといけないが、その資産が増えた上澄みの部分は自由に使っていいと考えている。例えば、資産運用をして増えた分は社会貢献活動に回している。」という話を聞いた。立派な想いに感動した。この人は主に外国債券で運用し、その金利収入を寄付に回している。

私はいくつかの財団法人の資産運用を担当しているが、同様の手法で運用しながら、その金利収入だけで①寄付金と②管理運営費を賄うようにしている。そうすることで、財団の設立者の想いと事業の永続性を確保できるように努めている。

私は長くプライベートバンカーをしているが、たくさんの資産を持っている富裕層でも社会のことを想って寄付ができる人は、全体の2,3割ぐらいではないかと思っている。富裕層が築いてきた財産は、実は自分が関わる社会や地域の人たちのお陰という側面があるものの、それを還元しようと考える人は少ない。科学的根拠はないものの、良いも悪いも多くの人の思いが詰まったお金を自分の懐にとどめるのではなく、社会に循環した方が、良い運気が入ってきそうな気がする。

 

 

多くの富裕層の方とお付き合いしていると、お金を取り巻く家庭の実情を垣間見ることがある。特に相続時は顕著である。例えば、お父さんがたくさんの資産を残して死んでも、残念ながら相続人が感謝するかは分からない。遺産分割の話し合いの際に「お父さん、たくさんの資産を残してくれて有り難う!」という感謝の言葉ではなく、「長男の兄には12億円、次男の自分は8億円と少ない!」という揉め事が始まる。

亡くなったお父さんは、会社を引き継ぐ長男に換金できない未上場の自社株式を含めて、より多くの資産を残したのだろう。むしろ次男に気を使って、換金できる8億円を残したつもりが、お父さんは天国で恨み節を聞くことになる。現在進行形の揉め事としては「あっちは36億円、自分は33億円」という争いを聞いている。

この相続財産は不動産を含めて、すべて換金できる資産である。もはや親への感謝の気持ちはない。他にも類似の事例を見ていると、「死後に相続人で揉めるなら、生前にもっと社会のためにお金を使っておいたら良かったのに。本人は多くの人から感謝され、今までとは違う人生の豊かさを味わうことができただろう。」と考えてしまう。

お金には色はない、と言われる。ところが、お金には温度がある。気持ちのこもった「温かいお金」を社会に循環することで、寄付者がもっと幸せになってほしいと願っている。

 

 

PAVONE 2025年10月号
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ムハマド・ユヌス様

グラミン銀行創設者
ノーベル平和賞受賞者

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第二電電(現KDDI)、イーモバイル(現ワイモバイル)創業者、レノバ名誉会長
千本倖生様

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レノバ名誉会長  千本倖生様

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第二電電(現KDDI)、イーモバイル(現ワイモバイル)創業者、レノバ名誉会長
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東 信吾
Azuma Shingo

一般社団法人ソーシャルビジネスバンク
代表理事

 

【経歴】
1974年生まれ
大阪大学経済学部卒、大和銀行(現りそな銀行)、シティバンク、日本不動産研究所、UBS、クレディ・スイス(西日本地域の営業責任者)

社会活動家/プライベートバンカー/不動産鑑定士

大学生の頃よりプライベートバンカーを志向する。
UBSアジアパシフィック地域において7年連続「ドラゴンクラブ」を受賞(日本人初)。
2015年、世界のトップバンカーの一人として「UBSサークルオブエクセレンス」を受賞。

2008年よりNPOのスタッフとして、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジアにおける社会貢献活動に参画。

2012年よりバングラデシュにて、グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士と自動車整備士養成プロジェクトを運営。

日本アントレプレナー大賞ソーシャルビジネス部門を創設(審査責任者)。
ソーシャルビジネスの普及活動に専念。


2022年より社会に「温かいお金」と「想い」を循環させることを目的に、一般社団法人ソーシャルビジネスバンクをスタート。日本で初めて金融商品仲介業を株式会社でなく、一般社団法人にて運営(組織形態及び定款は非営利徹底型)。


この法人では、

  1. 富裕層や企業オーナーを社会貢献活動の世界に導く
  2. 富裕層や企業の社会貢献活動をお手伝いする
  3. 金融商品仲介業務で得た法人利益から法人税納税後の内部留保の半分以上を、顧客の希望に即した社会貢献活動に充当する
自身は上記3事業を無報酬(ボランティア)で行っている。


【役職】 公益部門 8団体、企業顧問 5社

 

東信吾/azumashingo