参考にならない金融マン人生

 

いつの時代も金融営業は大変である。

運用利益が出て当然であり、損が出るとお客様から怒られる。
当然のこととはいえ、精神的にまいってしまう。

先日、金融営業のセミナーで話をしてほしいと言われた。
現役の金融機関の営業マンに話をする。

私の話が皆さんの役に立たないことを前提にお話を受けたが、やっぱり役に立ちそうにない。
私のケースは一般的ではないと思っている。

一流の営業マンは、投資信託の販売を行い、毎年の信託報酬を積み上げていく。
私のように毎年の信託報酬を頂戴できない債券売買を単発で行うスタイルだと、来年の収益を考えていないダメな営業マンとなる。しかも営業トークも苦手である。

では、どうするか?

私の経験上、圧倒的な資産額を預かるしか方法はない。
この考え方は、UBS銀行に所属していた時に実践していたものである。

プライベートバンカーの理想形は、信託報酬が定期的に入る投資信託を販売したり、ローンを出してローン金利をもらいながら、ローンを原資に金融商品を販売する。お客様の意向があれば、ローンを原資に金融商品を販売することが出来る。そのようにしながら、毎年安定的な定常収益を獲得することが理想である。

当時から私はその理想からほど遠い世界にいた。
もともとキャッシュリッチな富裕層にローンを出さなくてもいいだろう、と思っていた。

また、ローンを出して購入した金融商品が値下がりでもしたら目も当てられない。会社推奨の投資信託を販売した時は、思いのほか損失が出て、投資信託に痛い思い出がある。ETFのような信託報酬が0.1%を切るインデックス運用がある以上、それを上回ると自信を持てる投資信託になかなか出会えない。

スイス系のプライベートバンカーの世界で、よく言われる数字がある。
預かり資産200億円で収益2億円を稼ぐという目標である。
「ここまでくれば一人前」という数字である。

日本の金融機関からすると結構高い収益目標である。
収益(2億円)÷預かり資産(200億円)=1%(ROA:総資産利益率1%)である。

私は、同じ2億円の収益を生むためには、お客様に負担をかけないように、もっと資産を預かればいいのではないか?と思うようになった。

つまり、2億円÷400億円=0.5%(ROA:0.5%)、2億円÷600億円=0.33%(ROA:0.33%)というように、預かり資産額を大きくしていけば、どんどんお客様に負担をかけずにすむ。そして、こちらからセールスしなくても、お客様のタイミングで取引できるようになる。

しかし入社したばかりの若造には、当初の200億円すら遠い世界である。数年後に預かり資産が200億円に到達したときに、「今から3年後に500億円まで増やす」と目標設定に書いたが、自分でも「無理でしょ。」と思っていた。ところが、3年後にその金額を達成できた。

人一倍働いたとはいえ、不思議な経験であった。それからも資産額は増えていった。
結果として「預かり資産があれば、収益は自然と生まれる」という循環ができた。

今の私はどうであろう?
以前のようなガッツは全くない。

第二の人生として、社会貢献活動を中心に活動していることから、金融はお手伝い程度のものである。運用を必要としている人や企業にドルの劣後債を販売する程度である。金利は5~7%程度。株式のように価格が上下せず、満期償還になれば額面金額100%で償還されることから、販売する私も安心感がある。

何より社会貢献活動に関心のある人と時間を過ごしている。
そして新しい人との出会いを楽しんでいる。
自分からどんどんアクションを起こして、新しい人に会いに行く。
何かお役に立てることはないか?と探している。

全くご縁のない会社にメールを出して、新規開拓もしている。
たいてい返事がないが、全く気にしない。

いきなりメールをもらった企業からしたら「怪しいやつ」に決まっている。
私を上手く使ってくれるところがあれば良いなと思っている。

一緒に社会貢献活動ができれば、なお嬉しい。
仕事は考えておらず、新しい友人を探している感覚である。

私は自分から、こんな大企業とお付き合いしているとか、こんなファミリーとお付き合いしている、とか言わない。企業やオーナー一族の抱える問題が、私の引き出しに合うようであれば、それはお手伝いの遣り甲斐がある。

例えば、会社の役員に定期的に金融の勉強をしてほしい、企業としてSDGsを推進したい、子どもに金融知識全般を教えてほしい、海外留学を検討したい、財団を作りたい、遺言を書きたい(親族に書くように勧めてほしい)、個人的に社会貢献活動をしたい、海外に資産を分散したい、海外移住したい、スペインやハワイの不動産を買いたい、絵を購入したい、取引のある多くの金融機関の運用資産の精査をしてほしい、大学で学生にソーシャルビジネスや金融の基礎講座をしてほしい、社会起業家のサポートをしてほしいなど、多くの相談がある。

どれも楽しい。
どこで儲けているの?それも気にしない。

私が必要とする年間の収入は、アシスタントの給料と事務所の家賃、私の出張旅費程度である。
私は顧問企業から給料をもらっているので、SBBの活動からはもらっていない。

それ以上の収益が出た場合は、社会に還元する。
2008年から社会貢献活動を実践してきたことが、自分の金融知識と繋がって楽しい。

この心境に至るまで時間がかかったが、そんな金融マンの生き方があっても良いのかもしれない。

きっと金融営業のセミナーで「なんのこっちゃ。参考にならない。」という感想になるのは目に見えている。
そしてその感想こそが正解である。

結局は自分の世界観を作っていくことが金融マンに求められることだと感じている。

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ムハマド・ユヌス様

グラミン銀行創設者
ノーベル平和賞受賞者

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第二電電(現KDDI)、イーモバイル(現ワイモバイル)創業者、レノバ名誉会長
千本倖生様

第二電電(現KDDI)
イーモバイル(現ワイモバイル)創業者 
レノバ名誉会長  千本倖生様

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第二電電(現KDDI)、イーモバイル(現ワイモバイル)創業者、レノバ名誉会長
千本倖生様

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東 信吾
Azuma Shingo

一般社団法人ソーシャルビジネスバンク
代表理事

 

【経歴】
1974年生まれ
大阪大学経済学部卒、大和銀行(現りそな銀行)、シティバンク、日本不動産研究所、UBS、クレディ・スイス(西日本地域の営業責任者)

社会活動家/プライベートバンカー/不動産鑑定士

大学生の頃よりプライベートバンカーを志向する。
UBSアジアパシフィック地域において7年連続「ドラゴンクラブ」を受賞(日本人初)。
2015年、世界のトップバンカーの一人として「UBSサークルオブエクセレンス」を受賞
(唯一の日本人プライベートバンカー)。

2008年よりNPOのスタッフとして、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジアにおける社会貢献活動に参画。

2012年よりバングラデシュにて、グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士と自動車整備士養成プロジェクトを運営。

日本アントレプレナー大賞ソーシャルビジネス部門を創設(審査責任者)。
ソーシャルビジネスの普及活動に専念。


2022年より社会に「温かいお金」と「想い」を循環させることを目的に、一般社団法人ソーシャルビジネスバンクをスタート。日本で初めて金融商品仲介業を株式会社でなく、一般社団法人にて運営(組織形態及び定款は非営利徹底型)。


この法人では、

  1. 富裕層や企業オーナーを社会貢献活動の世界に導く
  2. 富裕層や企業の社会貢献活動をお手伝いする
  3. 金融商品仲介業務で得た法人利益から法人税納税後の内部留保の半分以上を、顧客の希望に即した社会貢献活動に充当する
自身は上記3事業を無報酬(ボランティア)で行っている。


(公財)東京コミュニティー財団理事
(公財)千本財団理事
(一社)明日へのチカラ理事 ほか

世界4大会計事務所のひとつであるEYグループの日本法人(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)シニアフェロー

 

東信吾/azumashingo