ナオライの旅(海と山) in 広島
2025年10月

友人からナオライ(株)の三宅社長をご紹介いただいた。
当初は友人と三宅社長が私の住む神戸まで来ていただけるとの話だったが、「私が現地に伺います」とお願いした。
ナオライは、日本酒を40℃以下の低温で浄溜することで日本酒本来の香りを残した蒸留酒(浄溜酒)を作っている。このお酒を浄酎(じょうちゅう)という。日本酒、焼酎に次ぐ第三の和酒である。
各地の日本酒の酒蔵と連携しながら、その地域で廃れた酒蔵を浄酎の蒸留所として再生する取り組みを行っている。

9月下旬の暑い日、私は広島県の呉駅に降り立った。
ナオライの三宅社長、多田さんが改札口で待っていた。多田さんは日本郵政(株)に勤める優秀な若手社員である。地方創生に取り組むナオライに出向し、日本郵政グループの立場から地方創生を考える役割を担っている。日本全国に張り巡らされた郵便局の拠点が有効活用できれば、地方創生への端緒になる。日本郵政も面白い取り組みをしている。
私たちの車は瀬戸内の小さな島を繋ぐ橋を4つ渡り、大崎下島に到着した。この島は、みかん栽培を主な産業とし、昔はみかん御殿が立ち並んでいたようだ。過去には海洋交通の要衝であり、多くの人々が訪れた。

ナオライがレモンを栽培しているのは、大崎下島から北方に船で10分ほどの三角島(みかどじま)である。16時10分発の最終便で三角島に向かった。今ではこの島の住民は10人程度まで減っているようだ。
ナオライはこの島で農薬を一切使わないレモンを栽培している。レモンの木の周りに生える雑草すら除草しない。除草剤を使うと、レモンの根が持つ本来の強さが失われるのだという。レモン農園に行くと、目の前にはグリーンレモンの木と手入れされた雑草が共生していた。

奥に見える三角島に向かう船上にて
左:ナオライ 三宅社長、
右:ナオライ出向中/日本郵政 多田さん



大崎下島のレモン加工場
夕暮れを見るために散歩に出かける。
この時期、都会では味わえない冷たい澄んだ空気に驚きと感動を覚えながら海沿いを散歩し、夕日を眺めた。

夕食は、ナオライに自然農パートナーとして参画している竹田さんの手作り発酵料理。
「うーん、うまい。」全ての料理が美味しく、唸ってしまった。発酵食品ならではの深い味わいに、4種類の浄酎のペアリングが身に染みる。美味しさは、その場の風景や空気感とともに記憶に残る。満足感の中、ぐっすりと眠った。

翌日、大崎下島から車で3時間ほど走り、広島県福山駅の北方にある神石高原町を訪問した。
最初にマリモグループが運営するマリモファームを見学した。マリモグループの本業はマンションディベロッパーであるが、深川社長の社会を想う気持ちの深さから、今後は事業の半分をソーシャルビジネスで運営する方針である。

マリモファームのお米は除草剤、化学肥料を使わない有機栽培で作られている。
目の前には収穫前の稲穂が広がっている。驚いたのは、想像していたよりマリモファームが広大なことである。有機栽培でこの規模を管理するのは、さぞかし大変だろう。
ナオライの浄酎はここのお米も使っている。
マリモファームを後にして、同じ神石高原町にあるナオライの酒蔵を訪問した。ここから浄酎が生まれている。


「日本酒を浄溜する」とはどういうことなのか?
その意味をナオライの酒蔵にある浄溜設備を見せてもらうことで、やっと納得できた。
真空状態では40℃以下でも沸点に達する。揮発した上澄み液が浄酎となる。透明の浄酎を樽に付け込むと黄金色に変色し、まろやかな味となる。ここに三角島の自然農法のレモンを漬け込むと、レモンの香りと酸味がアクセントになる別の種類の浄酎が生まれる。
ナオライはこれから能登、長野、北海道などの酒蔵とも連携するという。それぞれの地域で違った味わいになることが想像できる。楽しみである。
夕方、帰路についた。この旅では、浄酎が生まれるまでの過程を知ることで、ナオライの皆さんの酒造りに対する想いに触れることができた。三宅社長が守ろうとするのは、各地の酒蔵やそこを取り巻くコミュニティである。これまで日本各地の酒蔵を中心に発展した日本の地方文化を守りたいのである。そのために各地の酒蔵と連携しながら、その土地特有の浄酎を世に送り出している。
日本酒を浄溜して生み出される純度の高い浄酎に影響されたのか、私の旅もピュアで濃度が高い思い出となった。
これからも熱い想いを持った人たちと過ごす時間を大切にしたい。

