顔と心が男前な経営者
2022年2月
人生の先輩は神戸を中心に分譲マンションを販売し、賃貸マンションの経営管理をしている。
会社は時流に乗り勢いがある。
人生の先輩は、いかにも威勢がいい不動産会社の社長である。
一方、性格は気配りが細やかで繊細である。そんな先輩はいつも多くの人に囲まれている。
私は昨年のSBBの活動報告をするために人生の先輩を訪問した。
思いのほか、ランチにステーキをご馳走してもらった。
やはり神戸牛は旨い。ご馳走さまでした。<(_ _)>
人生の先輩は、今まで社会貢献活動に関心がありながら、仕事一筋のため、その機会がなかった。
様々な分野の社会貢献活動の事例を話しする中で、先輩は「DV(ドメスティックバイオレンス)や虐待を受けている女性や子どもの支援には関心があるな。またどんな活動か教えて。」と言った。
数日後、私はウィメンズネットこうべの正井代表を人生の先輩に紹介した。
ウィメンズネットこうべは、DV被害や社会的要因などで困難な状況にある女性と子どもの支援を行っている。正井代表は30年間以上、多くの女性たちの支援を続けてきた。
シングルマザーの方や困窮する留学生・大学生、若年女性などが住まいを探そうとしても、不動産仲介業者は物件を紹介してくれないことがある。保証人がいないとか、収入が安定してないといった理由が主な原因である。
ウィメンズネットこうべが借主になると申し出ても、「住民がそのような人だと難しい」と断られる。
また企業に寄付活動のお願いに行っても「DVというのはイメージが暗い。株主に説明できない。」などと断られる。
それでも正井代表は根気強くお願いを続ける。私は聞いていて涙が出そうになる。そして腹が立ってくる。DV被害であれば、往々にして男性がその原因を作っているのだが、経営者の男性の多くが見て見ぬふりをする。そんな社会に腹が立つ。
おもむろに、人生の先輩は「それ、ムカつくな。うちの使ってない部屋を使ったらいいよ。空いている部屋は少ないけど、無料でいいよ。」と言った。
私たちは驚くとともに、有り難い申し出に感謝した。「有り難うございます!」私は頭を下げた。
現在、ウィメンズネットこうべは、生活協同組合コープこうべが30年前まで使っていた40室の旧女子寮を無償で引き受けて、改装工事をする。
この場所を住宅の確保が困難な女性たち、生活困窮している女性や子ども・学生たちのため住まいとして提供し、暮らしや就労支援・経済的自立などの生活再建を支援する予定である。正井代表は、この仕組みを全国に広げたいと言う。
改築にあたり、国からも補助金がでるものの、40室の改装には相当なコストがかかる。また昨今のインフレに伴う建築費の上昇により、負担額がさらに上昇する。この改築にも、建築業者の選定が必要となるが、候補の業者名を聞くと、大手の工務店ばかりである。
一般的に、大手工務店は自身で工事をするのではなく、外注することになる。
そのため建築コストが上昇する。
人生の先輩は「そんな大手ばかりだと、余計にコストがかかりますよ。自分が使っている設計施工の工務店が安く引き受けてくれるか聞きますよ。」と言った。
これも心強い。不動産のプロからの直接指導は本当に有り難い。
また、人生の先輩は「仕事が見つからない女性には、うちの会社で雇用の機会も提供しますよ。」とまで言ってくれた。「本当に有り難うございます!」再び、私は頭を下げた。
人生の先輩は、帰り際、私たちをエレベーターホールまで案内しながら、私に耳打ちした。
「他にも何かサポートすることがあったら、何でも言ってよ。」
人生の先輩は、たたき上げの創業者で曲がったことが嫌いである。
人をいつも楽しくさせ、人情にあつい。年齢は50代と若い。
私は先輩の会社がますます発展し、これからも多くの人に幸せを届けてくれるだろうと期待している。
幸運にも、先輩を通して人の持つ「器の大きさ」を感じる機会を得た。
重たい内容であったが、同時に気持ち良い時間でもあった。