若手起業家からパワーをもらう
2022年3月
先日、ある女性篤志家が女性起業家に寄付をした。
起業家の活動費用及び従業員の給与に対するサポートである。
この資金は株式会社への出資ではなく、単純な寄付という形である。
この起業家はいま日本に帰国している。
1か月後には再びアフリカのウガンダに飛び立つ予定である。
女性起業家が作ったベンチャー企業は株式会社Sunda Technology Globalという。
昨年、日本アントレプレナー大賞というビジネスコンテストで大賞(1位)を取った。
彼女は大賞を受賞することで勢いがつき、なんと日本有数の家電メーカーを退職してしまった。
そしてウガンダに飛んだ。
水を汲み上げる手押しポンプに設置するシステム(SUNDA)をウガンダで展開している。
社会問題を解決するソーシャルビジネスである。
もともと青年海外協力隊で1年ウガンダに滞在した際に、住民が困っている現状をみて発案したシステムである。
いまウガンダの農村部には手押しポンプが6万基ある。そのうち2.4万基(約40%)が故障しているという。
なぜ修理しないのか?
それは修理費用がないからである。
そもそも井戸水はタダでもらえるのではなく、住民は少額の金額(20ℓで約1円弱)で購入している。
村の標準的な規模は100世帯前後であり、そこに1基の井戸がある。
生活に必要な水は手押しポンプで汲み上げられる。
各村では水料金を徴収する管理責任者が任命される。
ここで問題となるのは、管理責任者が預かったお金を使ったり、不公平な水料金の徴収をしたり、管理の煩雑さゆえに徴収業務を怠ったりと水料金が管理できていない村が多い。
このため手押しポンプが故障したときに、修理代を工面する貯えがなく、壊れたまま放置されてしまう。
こうなると住民は近場の不衛生なため池の水を使うしか選択肢がなかったり、水を運んでくれる人に高いお駄賃を払って遠い場所から水を運んでもらわないといけない。
汚い水が原因で死亡する子供は、毎日800人以上いるという。(出典:公益財団法人日本ユニセフ協会)
こんな中、女性起業家はプリペイド式の水料金徴収システムを考案した。
各家庭に1個のコイン型のタグを渡す。携帯電話でこのタグに入金し、そのタグをSUNDAの機械に差し込めば、購入した金額分の水が出てくる。
このシステムにより、いつ、誰が、どれだけ水を購入したかをPCで確認できる。
村の管理者は水料金の徴収をしなくて済む。
手押しポンプが壊れた際は、蓄積した資金の中から修理費を工面することができる。
ウガンダ政府は、手押しポンプの水料金回収システムにSUNDAを使いたいという。
政府の水環境庁とも覚書を締結した。
JICAのみならず、世界中のNGOとの連携が始まろうとしている。
今後、企業を成長させるためには資金調達という話が出てくる。
一般的に外部からの資金調達は、企業の時価総額、将来性、創業者の資質などが評価される。
ソーシャルビジネスは社会問題を解決すると同時に利益を追求している。
当然のように、出資者は、将来の株式価値の増大を願いながら投資(出資)する。
しかし、出資先企業が出資者の思い描く成長ストーリーに乗らないことも多い。
このため、企業と出資者が険悪な関係になることも多々あるが、
旅立った出資金が増えて返って来るほうが稀である。
冒頭で出てきた篤志家は、ベンチャー企業の人件費や交通費といった間接費用に対する寄付を快諾してくれた。出資ではない。
起業家の苦労を理解して、このような間接費用に寄付をしてくれる篤志家に出会うことはほとんどない。
出資のような「ビジネスライクなお金」と、この篤志家のような「社会に貢献したいと思うお金」。
どちらも貨幣価値は同じであるが、そこにある「想い」は異なる。
世の中の金融関係者のほとんどはビジネスライクなお金を扱っているが、私は「社会に貢献したいと思うお金」を扱いたい。
“温かい”お金を社会に還元することが、私の社会的使命である。実際、寄付を受けた女性起業家は、「金額面で有り難い以上に、篤志家の想いに何としても応えたい。」という。
企業が成長するためには、企業の中で働く人だけでなく、企業の外からサポートしてくれる人も必要である。
特に起業家は、人から助けたいと思われる才能がいる。
人から助けたいと思われるためには、信用を築くことが大切である。
信用は時間をかけて築いていくものであり、一朝一夕には築けない。
紹介者が紹介する人が超富裕層であったり、高名な経営者であればあるほど、紹介者自身の信用も試される。紹介者の信用の度合いによって、紹介してもらった起業家の物事の進み方も変わってくる。
自分自身を振り返っても、いままで多くの人から著名な人をご紹介してもらった。
ご紹介でないと出会いえない素晴らしい人が沢山いる。
私はこのようなご縁を大切にしながら、今度は自分が紹介する立場になっていることに気付く。
若い起業家には是非とも羽ばたいてもらいたい、と願っている。
私は若手起業家と接していると、彼らから多くの刺激を受ける。
社会的使命感を持って、強い想いで走り続けていた当時の自分の姿が蘇る。
私がUBSでプライベートバンカーを始めたとき、毎日念仏のように「日本一信頼されるプライベートバンカーになる。信頼される銀行員像を取り戻す。」と唱えていた。粗削りであるが、猪突猛進であった。
私は、当時の感情を呼び起こすために自分でSBBを始めた。
今の想いは当時と異なり「社会に温かいお金を循環させたい」というものである。
こういう気持ちにさせてくれるのも、若手起業家から刺激をもらっているからである。
私は若い起業家をサポートしているつもりであるが、実は彼らから得ていることの方が多いのではないか、と常々思っている。