家族で楽しむ貴重な時間(インクルーシブ映画上映会)
2025年6月
楽天証券HP(IFAコラム)に寄稿した記事をお届け致します。
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一般社団法人ソーシャルビジネスバンクは、楽天証券と業務委託契約を締結している金融商品仲介業者であり、「お客様」と「社会」の利益を追求するために設立された。
代表である私は長くプライベートバンカーとして働いたあと、現在は社会活動家として大半の時間を過ごしている。社名の由来であるソーシャルビジネスとは、ビジネスの手法を用いて収益を上げながら、継続的に社会問題を解決する事業活動をいう。
私は2008年より海外でのボランティア活動に携わり、7年前より日本アントレプレナー大賞ソーシャルビジネス部門賞の審査責任者をしている。応募部門は5部門あるが、毎年ソーシャルビジネス部門だけで150以上の応募がある。
本年の部門賞はNPO法人AYAが受賞した。通常であれば、ソーシャルビジネスという名前からして、ビジネスを前提とした株式会社が選ばれるところであるが、今回は違った。応募の中には、ソーシャルビジネスのベンチャー企業として、すでに黒字化を実現し、10億円以上の資金調達に成功している企業も含まれていた。そんな中、実績が少ない3年目のNPO法人AYAが選ばれた。

左:筆者、右:NPO法人AYAの中川代表
AYAは、全国各地で病気や障がいのある子どもと親が一緒に映画を楽しめるインクルーシブ映画上映会を開催している。この映画上映会の特徴は以下のとおりである。
①病気や障がいのある子どもの中には、映画館の暗い環境を怖がったり、音量が大きいとびっくりして声を出したり、そもそも落ち着いて座っていることが難しい子どもがいる。ただ、この日は声を出したり、歩き回ったりしても大丈夫である。
②いままで親は病気や障がいのある子どもを映画に連れていきたくても、周囲の人に迷惑をかけることを懸念して、一緒に映画を楽しむことができなかった。この日は、子どもが歩いても、医療機器のアラームが鳴っても、親は周囲に気兼ねすることなく、子どもと一緒に映画を楽しむことができる。
③東宝やウォルト・ディズニー・ジャパンといった映画配給会社や映画館は、健常の子どもたちと同じように、いま上映している子ども向け映画を病気や障がいのある子どもたちにも楽しんでもらいたいという想いがある。もちろん親子ともに入場料1,000円はいただく。配給会社や映画館は、社会を良くする活動に参加できることに、やりがいを感じている。

(写真提供:NPO法人AYA)
AYAの中川代表は京都大学医学部を卒業した現役の医師である。各地で開催される映画上映会には医療従事者を中心とした地元の方々がボランティアとして参加し、子どもたちの偶発的なケガや発作などに対応できる準備をしている。親のみならず場所を提供する映画館も安心である。
AYAが活動を開始して3年で100回以上の映画上映会などのイベントが開催され、入場者は1万人以上になった。各イベントの入場料だけでは、AYAの運営費が賄えないので、これからは多くの人や企業からの寄付金を集めないと持続できない。
「寄付金を集めるのは、ソーシャルビジネスといえるのか?」と考える人がいるかもしれない。確かにビジネスではない。一方で、創業したてのベンチャー企業も、行政からの支援や助成金をもらい、時には企業や個人投資家から出資金を集める。
組織形態に関わらず、企業や個人を巻き込みながら、活動を支えるお金(出資金や寄付金)を原資に、社会に良いインパクトが与えられるのであれば、株式会社であろうがNPO法人であろうが、今回のソーシャルビジネス部門賞に値する。NPO活動を軌道に乗せるためには、起業家精神とビジネスセンスが必要である。ビジネスを成功に導ける人でないと、NPO活動を持続し、拡大させることはできない。
これからもAYAが多くの人に支えられ、全国各地でイベントを開催し、病気や障がいのある子どもたちと家族に幸せな時間を提供し続けることを願っている。AYAの本当の目的は、病気や障がいのある子どもたちと家族が居心地よく暮らせる社会を築くことである。微力ながら、私も一緒にAYAの夢を応援したい。
NPO AYA公式サイト
https://aya-npo.org/