方向性の違いを自覚する
2022年6月
一般的に社会貢献活動に参加しようと思ったとき、以下のような行動がうまれる。
- 寄付をする
- ボランティア活動をする
- 自らNPO法人を立ち上げる
- 社会起業家として社会問題を解決するビジネスを行う
ふと、自分のスタンスを考えた。
私には社会貢献活動に関して、情熱を注ぐ対象がある。
それは 「5. 富裕層」 の人達である。
私はプライベートバンカーとして多くの富裕層と接してきた。
富裕層の中には、社会貢献活動に参加したくてもどのように参加して良いか分からない人が多い。
彼らは自ら「何か社会貢献活動をしたいのですが、どのようにしたら良いですか?」と聞いてくることは滅多にない。誰かが彼らを社会貢献活動に導く必要がある。
本来であれば富裕層に接点が多い金融機関や顧問税理士等が適任である。
良い傾向としては、一部の銀行や証券会社が富裕層を社会貢献活動にいざなう活動を行っている。
例えば、金融機関が連携をはじめた一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)は、中立的な立場から、社会貢献を行おうとする富裕層に対して、寄付のインパクト評価までを含めた提案を行っている。革新的なサービスである。
私はUBSやクレディ・スイスといった富裕層専門のプライベートバンカーとして働いてきた。
いままで多くの富裕層に「社会貢献活動を一緒にしましょう!」と声をかけてきた。
結果として、これまで財団・社団の設立及び運営には10団体ほど関わっている。
UBSやクレディ・スイスの社内でも同僚に対して、どのように富裕層に声をかけて一緒に社会貢献活動を実践していくのか、といった研修を行ってきた。
もちろん富裕層の中にも、全く関心のない人もいる。個人的には富裕層のうち「お金が全て!」の人が半数以上いると感じている。人間とはお金を持つと自然と社会のことを想うようになるのではないかと思っていたが、案外そうでもないことを知った。
ダメもとで、お金が全ての富裕層の人に声をかけていく。
「一緒に社会のために行動しませんか?」と。
返って来る返事はだいたい似ている。
「日々、忙しくて考えられない。」
「今はやる事があるから、時期がきたら考える。」
「もう少し資産ができたら考える。」
私が声をかける人は十分に資産の裏付けがある人なので、今後の生活に困ることはないものの、タイミングが今ではないようである。それでも、私がいま声をかけておくことで、こうした人たちが将来、社会のために何か取り組んでくれることを信じている。
社会貢献活動は何歳になってからでもできる。
「自分はもう年だからいいか。」と諦めるのはもったいない。
新しい人々や新しい価値観との出会いが待っている。
人生をより豊かに過ごすことができる機会に出会える。
そのために、私は動かないといけない。少しでも多くの富裕層に声をかけていく。
結果として、お金と善意が社会に循環することを望んでいる。
実際、ある経営者は私と出会ってから数年後に「東さんに影響を受けたので、自社でソーシャルビジネスを作っていきたい。」と言ってくれた。とても嬉しかった。
今回改めて上記1~5を書き出すきっかけをくれたのは、人生の先輩であるK社長である。
K社長は再生可能エネルギー業界のリーディングカンパニーの上場企業社長である。
大学生のときから環境分野を学び、外資系コンサルで数年働いた後、自身で会社を立ち上げた。
もう20年以上前の話である。
先日、人生の先輩が地元の神戸に戻ってきたので、一緒に食事をした。
人生の先輩は「なるほど、信吾は向いている方向が違うな。」と言う。
「方向?」一瞬、意味が分からなかった。
K社長曰く、私の情熱や関心が社会的に保護されるべき人々や環境保護ではなくて、その源流であるお金の出し手にフォーカスしている、ということである。
たしかに、多くの人が社会貢献活動に参加しようとしたときに、まず考えるのが1~4である。もちろん私は1~4を大事にしており、自身でもNPOのスタッフとして心血を注いでいるプロジェクトがある。
同時に、そこに資金を供給する人や企業をいかに巻き込むかに関心が向いているのも事実である。
常に「社会に循環する資金が滞っている」と、危機感を感じている。
社会の隙間を埋めるべく真摯に活動しているNPOに資金が回らない日本の状況は世界的に見ても珍しい。私自身が社会に資金を循環させる“起点”となることに重きを置いているのはそのためである。
人生の先輩であるK社長は昔から私の言葉を分析して言語化してくれる。
弁も爽やかで頭がきれる。私とはまるで違う。
今更ながら自分が向いている「方向」を意識し、自分の役割を再認識できた有意義な時間であった。