対 談
人生は奇跡の連続 Vol.1

千本倖生-東信吾

今回の対談者

千本 倖生さちお

プロフィール
1942年奈良生まれ。
京都大学工学部卒業。日本電信電話公社(現・NTT)に入社後、フロリダ大学にて修士・博士(Ph.D)学位を取得。84年に第二電電株式会社(現・KDDI)を稲盛和夫氏らと共同創業し、専務取締役、取締役副社長を歴任。96年に慶應義塾大学大学院教授、カリフォルニア大学バークレー校、カーネギーメロン大学の客員教授を務める。99年イー・アクセス株式会社を創業。2005年イー・モバイル株式会社(現・ワイモバイル)を設立し、代表取締役会長兼CEOを務める。2014年、株式会社レノバ社外取締役に就任、代表取締役会長を経て、2023年より名誉会長。公益財団法人千本財団及び一般財団法人こどもたちと共に歩む会を創設し、代表理事を務める。

 

この度はお時間をお頂きまして、誠に有り難うございます。

千本様との対談記事を書かせて頂きとても光栄です。この4月からレノバの取締役会長から名誉会長となり、少し落ち着かれるかと思いきや、米国の歴史あるエクセレントカンパニーの取締役に就任されました。また、ベンチャー企業の支援にも奔走されています。

 

千本様

再生可能エネルギーのリーディングカンパニーであるレノバは上場前から事業の構築に携わりましたが、経営陣が立派に経営できるようになりましたので、私は新たなチャレンジがしたくなりました。

そんな中、アメリカで事業を行っている友人から仕事を手伝ってほしいと声がかかりました。最近は頻繁に海外出張しており、ベンチャー精神が刺激される毎日を送っています。

 

 


千本様は何歳になっても、ベンチャー精神を持ち続けており、驚くばかりです。千本様の起業家としての実績は素晴らしいものです。

今回の対談では、千本様が事業を通して感じてきたことに焦点を当てて、お話を伺いたいと思っております。また社会貢献活動への想いも伺えれば幸いです。

さて、今年2月に千本様が出版された「千に一つの奇跡をつかめ!」は千本様のこれまでの素晴らしい人との出会いや起業家としての軌跡を記されていると同時に、利他の精神や社会貢献といった高い志を持つことの重要性を記されておられます。

 

千本様
この本は連続起業家としての私の実績を記したというよりも、起業という経験を通じて現在に至るまで大切にしている心構えを書いています。

この世に生を受けていること自体が、千に一つの奇跡です。与えられた人生をどのように輝かせていくかを、自分の経験を通して伝えたいと思いました。

起業が成功するかは運次第と言われますが、自分の経験や関心事、問題意識と時代のニーズが合致したり、その時代ごとに必要とする人たちとの出会いが偶然一致することがあります。これこそ千に一つの奇跡です。これは私だけに起こる事ではなく、どんな人にでもその人にふさわしい千に一つの奇跡が巡ってくるものだと思っています。

 


そのような奇跡を千本様の起業ストーリーに重ねて語っている内容は、とても興味深いです。

千本様の最初の起業は、京セラ創業者の稲盛和夫氏を口説いて、NTTに対抗する第二電電(現・KDDI)を設立するストーリーです。後にDDIを起業し、独占企業であるNTTに対抗する組織として名乗りをあげました。

しかし世間から見たDDIは、国鉄(現・JR)を運営母体とする日本テレコム、日本道路公団とトヨタが組んだ日本高速通信という巨大企業と比べると弱小企業でした。そのようなDDIが最後に勝ち残るストーリーはとても刺激的です。

次に創業されたイー・アクセスのストーリーも読みごたえがあります。ITバブル崩壊後の投資意欲が冷えきっているタイミングにもかかわらず、創業から4か月で45億円も資金調達したという話に驚きました。

しかもゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレー証券という世界の2大証券会社から大きな資金調達をしたのは普通ではあり得ません。特にゴールドマン・サックスのトップにアポなしで直談判にいくストーリーは臨場感がありました。

この2つのストーリーにも共通した心構えがあると書いておられます。これはとても関心があります。

 

千本様
どちらにも共通する想いは、自分が社会や国民を良い方向に導きたいという情熱です。私欲ではなく「世のため、人のため」という大義を持っていました。

自分には資金力がなく、大きな理念しかありませんでした。資金力がない代わりに新しい発想や戦略、行動力といった事業成功に向けての独自の取り組みは必要となりますが、それを支えるものは私心なき情熱でした。

純粋な動機や高い目的意識が、最終的には目標に向かって一緒に走る社員の心に火をつけました。多くの人を巻き込み、支援者の気持ちを動かし、結果として多くの奇跡が生まれました。

 

千に一つの奇跡をつかめ-千本倖生

 


「世のため、人のため」という大義が奇跡を生み出したのですね。

私心なき純粋な動機や未知の挑戦が、企業の段階的な成長曲線から乖離して、跳躍的な成長の瞬間(クオンタムリープ)を導くというお話もされています。これは理屈では考えにくい現象なのですが、理論的に説明できるものなのでしょうか?

 

千本様
この話は稲盛さんもされていました。科学的証明するのは難しいですが、世のため人のためという利他の心や高い志に、天という「大きな意思」が反応し、私たちに進むべき方向や問題の解決策を垣間見せるのではないかと思っています。

よい心、よい行いは天の意思に沿うものであるので、結果として成功の摂理に沿うものになります。人との出会いは、まさに天の意思や宇宙の流れといった目に見えない力が働いています。人生の節目に人生を変えてくれる人との出会いをもたらしてくるのは奇跡でしかありません。

 

千本倖生氏

 


天に意思に沿うことが理にかなっている、ということですね。
実は私もサラリーマンを辞めてから、そのような事を実感することが多くなりました。

私は一般社団法人ソーシャルビジネスバンクで金融事業を立ち上げましたが、この会社を自己の利益のためでなく、社会に利益を還元する器として使おうと決めました。

これを始めるときの想いや葛藤は弊社のHPにも記載しましたが、いざスタートしてみるとUBSやクレディ・スイスに勤務していた時には会えなかった素晴らしい方々との出会いがありました。私は社会をより良くしたいという想いを追求していますので、その想いが天に伝わっていると感じています。千本様とはスケール感は違いますが、他人事ではなく自分にも起こっている奇跡を実感しますので、千本様の言葉がストンと理解できました。

千本様は人との「出会い」に人一倍の思い入れがあるように見受けられますが、「出会い」に関してはどの様なお考えがあるのでしょうか?

 

千本様
私を変えるきっかけを作ってくれた人との出会いは、今にしてみれば奇跡のような出来事でした。出会った当時は、単なる知り合いや友人としての繋がりでしたが、結果としてビジネスを一緒にしたり、助けてもらった経験がたくさんあります。

ここで大事なことは、同じ風景を見たり、同じ人物に出会っても、何も感じなければ、人生は変わりません。出会いを単なる出会いとするだけではダメで、出会いから何かを感じ取り、新しい智恵に結び付け、実際に行動に移すことが必要です。出会いの確率は80億分の1なので、その出会いを良いものとする意思と努力は必要です。

 


仰る通りです。出会いを育てていく努力は大事です。勝手に育つものではないですね。

私はビジネスを前提に人間関係を構築しないので、私の経験則からいうと新しい人との信頼関係ができるまで5年~10年かかると感じています。もちろんその間も、私から連絡を取って会いに行っています。素晴らしい人が会ってくれるだけでも有り難いことです。

千本様は多くの人と出会っておられますが、ご自身の人生の指針に影響を与えた人はいますでしょうか。

 

千本様
本の中にも書きましたが、私が40歳ぐらいで電電公社の技術調査部長をしていた時、90歳ちかい松下幸之助さんに何度かお会いし、通信ネットワーク改革の話をさせて頂きました。

松下翁は親子以上に離れている私を丁重に扱ってくださり、新しい時代の流れを私から吸収したいという思いに溢れていました。そのことに感動すると同時に、松下翁のベンチャー精神や年齢に関係なく学ぶ姿勢を大切にしている姿を間近で感じた経験は、今でも私の行動にも大きな影響を与えています。

 


私は千本様の学ぶ姿勢を、実際に拝見したことがあります。

昨年、私は千本様にUBSを辞めてタイでNPOを立ち上げた2名のスイス人を紹介しました。千本様がとても好奇心を持ちながら、彼らにUBSを辞めた理由やその深層心理、NPO活動の内容などを色々と質問されていました。何かを吸収しようとする探求心の強さに驚きました。

千本様は社会をより良くしたいという想いを以前からお持ちです。ご著書を出版された時、千本様からお電話をいただきました。この本の印税を全額、児童虐待保護施設に寄付されると伺いました。素晴らしい取り組みです。これはどの様な想いから取り組もうと思ったのでしょうか?

 

千本様
家庭内の虐待により多くの子ども達が大変な目に合っている事実を知りました。とても胸が痛みます。

このような子ども達を助ける活動は、社会的意義があるにも関わらず、残念ながら社会から注目されていません。企業は社会支援団体に寄付をするかどうかの判断で、企業イメージを優先します。結果として虐待という重いテーマを扱うことを嫌がります。

そんな状態を見て見ぬ振りができなくなり、私が出来ることを始めようと思った次第です。有志で児童虐待保護活動を支援する「一般財団法人こどもたちと共に歩む会」を設立しました。

 


本当に素晴らしいことです。

社会でスポットライトが当たらない場所で頑張っているNPOが沢山あります。NPOを運営している人は、「困っている人を助けたい。社会問題を解決したい。」と真摯に取り組んでいますが、その活動が理解されるまで長い時間がかかります。

私自身もそのようなNPOに“温かいお金”と“想い”を循環させたいという動機からSBBを始めました。実態調査をしていく中で、NPOが扱うテーマが重たくなればなるほど、寄附する企業の腰が重たくなる傾向を感じます。お金が集まりにくいテーマを扱うNPOに支援をするのは大切なことです。他の人が支援を躊躇する分野を応援している千本様の想いの深さには敬服します。

 

千本様
私は自分が出来ることを少しずつ積み重ねているだけです。

東さんは社会問題に関心が高く、自らも実践しているので、私が6年ほど前に設立した公益財団法人千本財団の常務理事になってもらいたいと思っております。東さんとの出会いも不思議なご縁を感じます。

 

公益財団法人千本財団

 


本当に恐れ多いことです。私にとっては、まさに千に一つの奇跡です。

千本様がアメリカで勉強された時に奨学金を受けたことへの恩返しとして、日本に勉強しに来ている外国人に奨学金を支給したい、という想いで千本財団が設立されました。これから私は千本財団の在り方や方向性を一緒に考えていきたいと思っております。

千本様のように自身の成功だけでなく、多くの人に幸せになってもらいたいと願い、それを実行に移せる人が増えてくれることを切望しております。

すみませんが、最後に伺わせてください。
千本様を慕う経営者や起業家がたくさんいます。起業家は特に、どうしても解決できない局面や困難に出会うことがあります。私も起業家の一人として、心がくじけそうになることは多々ありますが、千本様はそのような時にどのような心構えをしてきたのでしょうか?

 

千本様
私の起業家人生においても、困難に見舞われたり、合理的に考えて到底解決できない事態を何度となく経験しました。

そんな時「自分たちが進めようとしている事業は世の為になる。こんなところで負けるわけにはいかない。世の為にやり抜かなければならない。」と自問自答しました。最終的には使命感を心の奥底で感じれるかどうか、が起業家として成功できるかを決定づけているのではないでしょうか。

自分にしか出来ない「何か」を生み出し、行動に移したとき、世の中から「それは実現できない。非常識だ。」と言われることがあります。しかしその非常識さは、実はそれまでの「常識」に囚われていないだけであり、新しい「常識」を探ろうとする試みであることが往々にしてあります。

新しい事業を始める時、その事業は起業家がそれまでに出会った人たちや智恵の集大成であるはずです。事業を始めるまでの人との出会いやビジネスアイデアの創出は奇跡的と言えます。導かれた運命を信じ、自信をもって成功するまで歩み続けてください。

 

千本倖生氏

 


力強いお言葉を頂きまして、有り難うございます。私も自分を信じて進んでいきます。
進むべき方向に迷ったときは、引き続きご指導をいただければ幸いです。

毎日お忙しいかと存じますので、ご健康には何卒ご留意ください。
そして、ますますのご活躍を期待しております。

本日はお時間を頂戴しまして、誠に有り難うございました。

 

以上

 

2023年6月 東京にて

Trusted By

ムハマド・ユヌス様

グラミン銀行創設者
ノーベル平和賞受賞者

公益財団法人 千本財団

第二電電(現KDDI)、イーモバイル(現ワイモバイル)創業者、レノバ名誉会長
千本倖生様

第二電電(現KDDI)
イーモバイル(現ワイモバイル)創業者 
レノバ名誉会長  千本倖生様

一般財団法人 
こどもたちと共に歩む会

第二電電(現KDDI)、イーモバイル(現ワイモバイル)創業者、レノバ名誉会長
千本倖生様

第二電電(現KDDI)
イーモバイル(現ワイモバイル)創業者 
レノバ名誉会長  千本倖生様

一般社団法人 
明日へのチカラ

ロート製薬創業家  
山田安廣様

一般財団法人
チャイルドライフサポートとくしま

大塚製薬創業家  
大塚芳紘様

公益財団法人 
木口福祉財団

ワールド創業家  
木口由美様

一般財団法人 
本願寺文化興隆財団

親鸞25代目、
平成上皇の従兄弟いとこ 
本願寺法主 大谷暢順様

NPO法人 
SK Dream Japan

オートバックス創業家  
住野和子様

公益財団法人 
東京コミュニティー財団

東 信吾
Azuma Shingo

一般社団法人ソーシャルビジネスバンク
代表理事

 

【経歴】
1974年生まれ
大阪大学経済学部卒、大和銀行(現りそな銀行)、シティバンク、日本不動産研究所、UBS、クレディ・スイス(西日本地域の営業責任者)

社会活動家/プライベートバンカー/不動産鑑定士

大学生の頃よりプライベートバンカーを志向する。
UBSアジアパシフィック地域において7年連続「ドラゴンクラブ」を受賞(日本人初)。
2015年、世界のトップバンカーの一人として「UBSサークルオブエクセレンス」を受賞
(唯一の日本人プライベートバンカー)。

2008年よりNPOのスタッフとして、タイ、ラオス、ミャンマー、カンボジアにおける社会貢献活動に参画。

2012年よりバングラデシュにて、グラミン銀行創設者でノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス博士と自動車整備士養成プロジェクトを運営。

日本アントレプレナー大賞ソーシャルビジネス部門を創設(審査責任者)。
ソーシャルビジネスの普及活動に専念。


2022年より社会に「温かいお金」と「想い」を循環させることを目的に、一般社団法人ソーシャルビジネスバンクをスタート。日本で初めて金融商品仲介業を株式会社でなく、一般社団法人にて運営(組織形態及び定款は非営利徹底型)。


この法人では、

  1. 富裕層や企業オーナーを社会貢献活動の世界に導く
  2. 富裕層や企業の社会貢献活動をお手伝いする
  3. 金融商品仲介業務で得た法人利益から法人税納税後の内部留保の半分以上を、顧客の希望に即した社会貢献活動に充当する
自身は上記3事業を無報酬(ボランティア)で行っている。


(公財)東京コミュニティー財団理事
(公財)千本財団理事
(一社)明日へのチカラ理事 ほか

世界4大会計事務所のひとつであるEYグループの日本法人(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)シニアフェロー

 

東信吾/azumashingo